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大阪高等裁判所 昭和62年(行コ)33号 判決

京都市上京区元誓願寺通千本西入松屋町三八七番地

控訴人

周防武史

右訴訟代理人弁護士

高田良爾

京都市上京区一条通西洞院東入元真如堂町三五八番地

被控訴人

上京税務署長

川瀬栄一

右指定代理人

高須要子

佐治隆夫

大崎直之

西峰邦男

幸田数徳

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が控訴人に対し昭和五五年一二月二二日付けでした控訴人の総所得金額に対する更正処分につき昭和五二年分の総所得金額のうち一〇四万二〇〇〇円、同五三年分の総所得金額のうち一〇九万三〇〇〇円、同五四年分の総所得金額のうち一二九万八七〇〇円を超える部分及び右各年分の過少申告加算税賦課決定処分を取り消す(当審おいて変更)。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文と同旨。

第二当事者の主張

次のとおり付加・訂正するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決別表2の昭和五三年分同業者所得率「72.15%」を「72.16%」に改める。

二  原判決三枚目表四行目を「よつて、控訴人は被控訴人に対し、本件各処分につき昭和五二年分の総所得金額のうち一〇四万二〇〇〇円、同五三年分の総所得金額のうち一〇九万三〇〇〇円、同五四年分の総所得金額のうち一二九万八七〇〇円を超える部分及び右各年分の過少申告加算税賦課決定処分の取消しを求める。」に改める。

三  同四枚目裏八行目の「類似している。」の次に「もつとも、右両名が別個独立の事業主体である以上若干の相違点と当然避けられないところであるが、所得率に影響を及ぼすほどのものではない。すなわち、(一) 控訴人もテーブルセンターを製織しており、それが控訴人の売上金額中に占める割合は、昭和五二年分一パーセント、同五三年分九パーセント、同五四年分一パーセントで右同業者の場合と比較して開きのあることは否定できない。しかし、ふくさとテーブルセンターは、製織における基本的工程に変わりがなく、右同業者において原糸代・染代・整経代・製紋代・織賃等の原価計算を行い、それに基づき価格を定めることにより利益率が同一になるように配慮している。しかも、控訴人が手掛けているふくさの図柄ものには製織工程で手間が掛かり工賃等が高くつく関係で付加価値が高くなり、一般の製品に比し利益率の良いものさえあり、右パーセンテージの開きはむしろ控訴人にとつて有利なものである。(二) 右同業者が完成品のふくさを製織するのに対し、控訴人の製品は縫付け・房付けを残している。しかし、それは控訴人の製品が祝ふくさであることの性質上顧客の家紋を刺繍する便宜のため残していてるにすぎず、その残りの工程において生ずる利益もほとんど見込むことのできないものであつて、実質的に何ら完成品と異なることがない。しかも、控訴人の製品が右のような形態をとつているのは、右同業者の製品に比し高級品であることに基因するもので、当然付加価値が高く、利益も良くなるものであり、むしろ控訴人にとつて有利なものである。(三) 右同業者が三〇件ほどもある問屋とフリーに取引する業者であるのに対し、控訴人は数軒の問屋と専属的に取引する業者である。しかし、フリーな取引は、販売競争にさららされて価格の低下、経費の増加、更には見込生産によらざるをえないことの常として、年間を通じての取引の安定が困難で残品見切販売による損失等を避けられない。これに反して専属的取引は、右と逆の利点につながり、殊に年間を通じ受注と生産の均衡を図ることができ、売上数量・価格ともに安定するところが大きい。したがつて、右取引形態の相違は控訴人にとつて有利でこそあれ不利となるものではない。」を加える。

四  同六枚目裏六行目の「完成品を一般の小売店に販売してい」を「しかも、ふくさとテーブルセンターの売上金額における比率は前者が八五パーセント、後者が一五パーセントを占めるところ、右両製品は全く異質のものであるから各原価率に相違を生ずることは必定と考えられ、その相違が無視しうるものであることが明らかにされない以上、ふくさのみを製織する控訴人と類似同業者であることの判断に供することは許されず、また、右松井製織のふくさは完成品であり、その販売先が三〇軒ほどの問屋であるところから自由裁量によつて取引先や価格の決定をなしうる有利な立場にあ」に、同末行目の「特定の取引先に納品しており、」を「その納品先は実質的に僅か二軒の問屋に限られ、取引先や価格の決定に自由裁量の余地などおよそありえない立場にあり、」に各改める。

第三証拠関係

原・当審各訴訟記録中の書証・証人等各目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所も、控訴人の本訴請求は失当として棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり付加・訂正するほか、原判決理由説示と同じであるから、これを引用する。

1  原判決別表8を当判決別表のとおり改める。

2  原判決九枚目裏五・六行目の「乙三四号証」の次に「、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙三八号証」を加え、同六・七行目の「原告本人尋問の結果」を「原(第一、二回)・当審における控訴人本人尋問の結果」に改める。

3  同一〇枚目裏八行目の次に行を改めて「右同業者の製織するふくさとテーブルセンターは同じように力織機を使用し、基本的工程においてはふくさにおける縫付・房付等仕上段階の工程を除き変わりがなく、原糸も大きな相違が見られないうえ、原糸代・染代・製経代・製紋代・織賃等各工程ごとの工賃を計算し、その原価計算に基づいて利益率をほぼ同一ならしめるように価格を定めている。」を加え、同九行目を「大阪国税局作成部分についてはその方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正に成立したものと認められ、その余の作成部分については弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙三六、三七号証、原(第一、二回)・当審における控訴人本人尋問の結果(後記信用しない部分を除く。)に」に改める。

4  同一一枚目裏一〇行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「控訴人が納品する問屋は、ふくさについて右二社のほか宮井株式会社及び市田織物有限会社を合せた四軒であり、帯について山岡生三郎の一軒であつた。

控訴人はテーブルセンターも製織し、その売上金額は昭和五二年分三二万円、同五三年分一八三万六〇〇〇円、同五四年分二八万五〇〇〇円であり、その納品先は有限会社野崎機業店及び宮井株式会社の二軒であつた。」

5  同一四枚目裏八行目の「、また、」から同九行目の「小売店で」までを削り、同末行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「控訴人は、自己が本件係争年分につきテーブルセンターを製織していないのに、右同業者が製織するテーブルセンターの売上げ金額がふくさとの合計売上金額中に占める割合が一五パーセントもあり、かつ、右両製品が異質のものであるところから、各原価率に相違を生ずる旨主張するけれども、前期認定事実によると、控訴人も本件係争年分につきふくさのほかに若干のテーブルセンターを製織しており、しかもテーブルセンターとふくさはいずれも同じように力織機を使用して製織するもので、その基本的工程においてさしたる差異が見られないうえ、右同業者は各工程における個別的な原価計算に基づいて右両製品の価格を割り出し利益率をほぼ同一ならしめるようにしているから、右両製品について生ずる原価率の相違は無視して差支えないものと言うべきである。

控訴人は、ふくさにつき自己の製品と右同業者の製品の間には完成度において重要な相違があり利益率を異にする旨主張するけれども、控訴人の製品には、その最終工程に該当する部分につき若干の未完成部分が残されているとはいえ、前記認定のとおり、後日顧客の希望する家紋を刺繍するためそのような扱いをしているにすぎず、右残された部分について多くの付加価値を見込めるものではないと考えられるから、右両製品につき利益率を異にするものとしなければならないほどの顕著な相違はないと認めるのが相当である。」

二  よつて、右と同旨の原判決は相当で、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主分のとおり判決する。

(裁判長裁判官 今中道信 裁判官 仲江利政 裁判官 上野利隆)

別表8 事業所得金額の計算(裁判所の認定)

〈省略〉

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